2006年度 夏学期 大学院講義 物性理論* 

担当 加藤雄介(駒場第1キャンパス16号館3階301B号室、内線46534)

*過去に相関基礎科学系 大学院講義 機能解析学基礎論IIの単位を取得した人は、単位を取ることはできません

 日時; 月曜日2限 827号室 (終了しました 7月03日

 講義概要

固体中の電子物性、量子流体であるヘリウムを例にとり、10の23乗の程度の数からなる多体系を理解する上で重要な概念である素励起、秩序変数と理論的手法(グリーン関数、線形応答理論)の関連についての理解を目指す. 

 想定している知識

通常の物理系学科の学部4年までの量子力学と統計力学の講義内容

量子多粒子系における第二量子化表示*

 * 未修者は、量子力学の標準的教科書で独習するか、冬学期の大学院講義「量子力学特論I」(米谷教授担当)を受講する。あるいは2004年度の「量子力学III」(加藤担当)

の講義ノートhttp://park.itc.u-tokyo.ac.jp/kato-yusuke-lab/

→Members(加藤雄介)

→講義

→前年度までの講義

を参照して独習すること。

 対象;ベースラインは物性物理に関心のある修士課程一年生(理論、実験)

その他、物性物理または多体問題に関心のある大学院生

 成績; 期末レポート課題の答案で評価。

レポート課題(〆切2006年8月31日)

 

講義内容目次 

 第一章

§電子ガス、第二量子化表示でのハミルトニアン

§無次元パラメターrS

§交換エネルギー

§線形応答理論、応答関数(余効関数)遅延グリーン関数

§温度グリーン関数

§誘電関数(線形応答理論の例)

§乱雑位相近似

§自由電子の誘電関数の計算

§個別励起と集団励起

§高速電子の散乱強度

§エネルギー吸収強度

§一体グリーン関数

§準粒子

§熱力学ポテンシャルの摂動展開

§グリーン関数とダイヤグラム則

§連結クラスター定理

§一体グリーン関数の摂動展開

§自己エネルギー

§ダイヤグラム法から見た乱雑位相近似

 

第二章 ボーズ流体

§He4の実験(比熱、粘性係数)

§中性子散乱

§Bogoliubovの理論(Bogoliubov変換、Landauの超流動条件、中性子散乱強度)

§励起スペクトルに対するFeynmanの理論(総和則)

§横応答関数と回転流の超流動(Bogoliubov model,自由電子系での横応答関数の計算)

§縦応答関数と長距離秩序(総和則、Martinの定理)

§ゲージ対称性の破れ

§Bogoliubovの不等式

§ゲージ対称性の破れと長距離相(ボーズ凝縮体)

 

 参考文献

  

 第一章のシラバス 

「電子ガス」と銘打ってはいるが、むしろ電子ガスを題材にしてフェルミオン系を理論的に解析する上での諸概念と手法を紹介するのが、この章の目的である。

 

§電子ガス、第二量子化表示でのハミルトニアン

§無次元パラメターrs

§交換エネルギー

はじめの3節は電子ガスを例にとった、第二量子化と多体系の摂動論のウォーミングアップである。まず実空間の電子ガスのハミルトニアンから出発して、基底状態エネルギーについての簡単な一次摂動を生成消滅演算子を用いて計算してみる。多体系の摂動論は縮退した摂動論なので、何が展開パラメターとなるかに注意する必要がある。クーロン相互作用に関する摂動論における展開パラメターが、電子ガスにおける特徴的長さ、ボーア半径と平均粒子間距離の比、rs  で与えられることを一次摂動(交換エネルギーの評価)で確認する。

 

§線形応答理論、応答関数(余効関数)遅延グリーン関数

エネルギー準位が密に詰まっている多体系では個々のエネルギー準位や波動関数の情報があっても系の性質を直接反映するわけではない。むしろそれらを用い、統計平均を施した相関関数こそが基底状態や有限温度における相の性質を特徴づける。一方実験で直接測定されるのは帯磁率や誘電率、電気伝導度などの応答関数である。そして平衡状態における相関関数と外場の一次までの応答関数を結びつける枠組みがこの節で紹介する線形応答理論である。線形応答理論は、密度行列の運動方程式を外場に関する一次の精度で解くことで得られる。さらにインパルス応答を記述する物理量として遅延グリーン関数を導入する。系の性質を理論的に議論し、実験における測定結果を予言、あるいは解釈するには遅延グリーン関数が計算できればいいわけである.

 

§温度グリーン関数

上述のように遅延グリーン関数は明確な物理的意味をもつが、ダイヤグラム展開(ウィックの定理)が適用できず、摂動計算に載せにくい。そこで、遅延グリーン関数と関連し、かつウィックの定理が適用できる温度グリーン関数を導入する. その他、先進グリーン関数や因果グリーン関数など数種類のグリーン関数を導入するが、それの関連はスペクトル関数を用いると見通しがよいことを指摘する。

 

§誘電関数(線形応答理論の例)

線形応答理論の例として、誘電関数を電荷密度演算子の遅延グリーン関数を用いて表す。

 

§乱雑位相近似

電子ガスにおける誘電関数はクーロン相互作用のため厳密には計算できない。そこで乱雑位相近似(Random Phase Approximation)と呼ばれる近似を導入する. この近似は、運動方程式の方法やダイアグラム法でも扱うことができるが、今回は初等的な方法で扱い、電子ガスの誘電関数の計算を自由電子のそれに帰着する。 

 

§自由電子の誘電関数の計算

前節の結果をふまえて、自由電子の誘電関数を求める。自由粒子系の相関関数や応答関数の計算は実に重要で甘く見てはいけない。乱雑位相近似に限らず、相互作用多体系の計算で一番大変なのは、自由粒子系の計算であることが意外に多い。

 

§個別励起と集団励起

前の2節で得られた誘電関数をもとに素励起についての性質を議論する。通常の波動現象の共鳴との類似性を用いて、応答関数の極から固有振動(ノーマルモード)を取り出す。多体系における素励起とはこのノーマルモードに他ならない。素励起には、自由電子と対応がつく個別励起と、多数の電子の励起を伴う集団励起の2種類あることを示し、今の場合の集団励起は古典電磁気学のプラズマ振動に対応することを示す.

 

§高速電子の散乱強度

実験的に誘電関数を測定するには、高速電子の散乱実験を行う。その際の散乱強度と誘電関数の関係を、フェルミの黄金律とスペクトル関数を用いて求める。

 

§エネルギー吸収強度

通常の波動現象では、固有振動と外場が共鳴するとき系は外場から大きなエネルギーを吸収する。同様に、外場によって素励起が励起されるとき、エネルギーの吸収が起きる.ここでは誘電関数とエネルギー吸収率の関係式を求め、揺動散逸定理の一例をみる。ここでも

スペクトル関数が一役買う。

 

§一体グリーン関数

ここまで扱ってきたグリーン関数は正確に言うと2体グリーン関数と呼ばれていたもので、普通グリーン関数というときは、この節で紹介する一体グリーン関数である。2体グリーン関数は、基底状態と励起状態の粒子数が等しい場合を扱う一方、1体グリーン関数が扱うのは、基底状態と励起状態で粒子数がひとつだけ異なる場合である。 物理プローブに対応するのはたいてい、2体グリーン関数であり、そのために一体グリーン関数の説明を後にしたわけである。一体グリーン関数に対応するプローブがないわけではなく、多電子系における光電子分光や走査型トンネル顕微鏡などは、一体グリーン関数のスペクトル関数を観測する。一体グリーン関数はそれだけでなく、むしろ、多体系の摂動論における基本単位としての役割も重要である。

 

§準粒子

2体グリーン関数から素励起が取り出せたように、一体のグリーン関数の極からも素励起とくに個別励起に関する情報を取り出すことができる. このことにより光電子分光から多電子系における個別励起、すなわち準粒子の情報が得られる。