強相関電子系とは斥力の強い電子のあつまりのことです。 相互作用があってはじめて「超伝導」、「強磁性」などの相転移現象が起こることから明らかなように、強相関電子系の物理は豊かな内容を湛えています。
さて天体の3体問題を思い出せばわかるように、相互作用のある多体系というのは簡単には扱えません。ところが固体の中には1023個の電子が詰まっており、そのような状況特有の新たな法則性が現れます。
量子多体系では、低エネルギー領域では相互作用の強い量子系が仮想的な自由粒子系と等価であるとみなせる場合があります。 3He、3次元的な金属中の伝導電子がその例であり、 それらは準粒子と呼ばれるフェルミオンの自由粒子系してその物性を解釈できます(Landauのフェルミ流体論)。 上の二つの例では準粒子はもとの粒子とは異なる質量と有限の寿命を持ちますが統計性は同じなので「相互作用の衣を着た粒子」と言われることもあります。 (その心は、衣をまとっているので重くなる--有効質量が大きくなる。)
さてこの世界の物質はすべて3次元的なはずだが、半導体の界面、有機導体、酸化物のなかには、物性として1次元電子系、2次元電子系とみなせる場合がある。 狭いところに押し込められると相互作用の役割が大きくなるために、準粒子の性質もこれら低次元強相関系では、従来のフェルミ流体におけるそれとは大きく異なり得ます。 例えば「分数量子ホール系」と呼ばれる半導体内の電子系ではe/3, e/5 の電荷を持つ準粒子が存在し、それらはボソンでもフェルミオンでもない「エニオン」とよばれる分数統計に従います。
また1次元相関電子系では電子が磁気モーメントだけを運び、電荷を持たない「スピノン」と電荷だけを運び磁気モーメントを持たない「ホロン」という2種類の「準粒子」に分裂します。 そしてそれらは分数統計に従うことも分かってきました。
現在、それらの「新しい(準)粒子探し」が一段落し、「それらの新しい性質がどのように物性に反映されるか」という点が重要なポイントになっていると私は考えています。 モット絶縁体の輸送現象、量子ホール系の動力学の理論研究に関心を抱いています。