機能解析学基礎論II 2004年度 夏学期 担当 加藤雄介(物性理論) 

講義内容

電子ガス(フェルミオン)、ボーズ流体(ボゾン)を題材にして、量子多体系に関する基礎的な概念と方法論について説明する。

第一章

§電子ガス、第二量子化表示でのハミルトニアン
§無次元パラメターrs
§交換エネルギー
§線形応答理論、応答関数 遅延グリーン関数
§温度グリーン関数
§誘電関数(線形応答理論の例)
§乱雑位相近似
§自由電子の誘電関数の計算
§個別励起と集団励起
§高速電子の散乱強度
§エネルギー吸収強度
§一体グリーン関数
§準粒子
第二章 ボーズ流体
§He4の実験(比熱、粘性係数)
§中性子散乱
§Bogoliubovの理論(Bogoliubov変換、Landauの超流動条件、中性子散乱強度)
§励起スペクトルに対するFeynmanの理論(総和則)
§横応答関数と回転流の超流動(Bogoliubov model,自由電子系での横応答関数の計算)
§縦応答関数と長距離秩序(総和則、Martinの定理)
§対称性の破れ(ハイゼンベルグ磁性体を例に)
§ゲージ対称性の破れ
§Bogoliubovの不等式
§対称性の破れと長距離相関(ハイゼンベルグ磁性体)
§ゲージ対称性の破れと長距離相(ボーズ凝縮体)
§位相長距離相関と流速密度長距離相関

 

参考文献

   岩波講座現代物理学の基礎8 物性II  (岩波書店)

   岩波講座現代物理学の基礎5 統計物理学(岩波書店)

   量子統計物理学,リフシッツ,ピタエフスキー著,(岩波書店)

   Methods of Quantum Field Theory in Statistical Physics, Abrikosov, Gorkov and Dzyaloshinski (Dover)

   多体問題、高田康民著 朝倉書店

   The Theory of Quantum Liquids, P. Nozieres and D. Pines (Perseus Books)

   Hydrodynamic Fluctuations, Broken Symmetry, and Correlation Functions, D.Forster (Benjamin )

 

レポート課題 次のテーマに関連する文献をひとつ選び、自分の言葉でわかりやすく要約せよ。

〆切 2004年9月1日17:00

提出先16号館3階301B号室

 

成績

レポート課題(講義内容に関連した論文の要約)を提出した10名が合格。題目は以下のとおり。

感想

 自分の研究テーマに近い論文、自分の論文?についてまとめた人、古典的な名論文をまとめた人などさまざまでしたが、みなよくまとまっていました。大学院の講義は聞き放しで終わることが多く、またそれでもいい、つまり耳学問も意味がある場合が多いのですが、受講後に最後にひとつ関連論文を読んでまとめると、自分のなかに何かが残るのも確かです。今回聴講したものの、課題を提出しなかった人に、この点を是非理解してほしいと思います.
 今回の講義が多体論の基礎的な内容を扱ったこともあって、古典的な文献を扱った人が数人いました。その人たちがおそらく気づいたように、昔の文献(本論文)は教科書のように丁寧に書かれていることが多く、また多少分野が異なっていても読むことができますので勉強になります。現在は、高く評価されている学術雑誌はどれもページ制限が厳しいこともあり、「短く言い切る」論文が多くなっています。速報性という意味では大変良いのですが,専門外の人間に読みづらい論文が年々増えています.60年代70年代の論文の書き方が個人的には好きです。昔の論文の難点は、今の記号や定式化と異なるもので記述されることが多いことですが、自分なりの形式に翻訳するのもそれなりに楽しいものです。
 さてみなさんも私もこれから勉強しつつ研究するわけですが、その中で二通りの論文の読み方を身につける必要があります.ひとつは短時間に導入部と結論だけ読んで、大体何が書いてあるかを把握する読み方。もう一つはペンを持って時間をかけてじっくり読み、切り口や話の流れの作り方を味わう読み方。 大学院は主に研究するところですので、研究室セミナーなどを通して前者のような読み方は自然と身につくと思いますが、たまにはゆっくり論文を読む機会も作ってみてください。 数年後、みなさんの研究上きっと役に立つと思います。